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でも、この土砂降りの中を家路へと急ぐ人々を眺めているうちに、みんなの帰る場所に幸せはあるのだろうかと、ふとそんな事を考えてしまった。
この雨のなかを急いで帰ろうとも、降り止むのを待とうとも、頼子の帰る一人暮らしのアパートには、特別な幸せなど待っていないのだから。
家に帰ったらスーツを乾かして、洗濯機を回しながら、さほど面白くもないバラエティ番組を見るわけでもなくつけて、缶チューハイ片手に雑誌をめくる。
お風呂に入って、明日のために眠るだけ。
そんな家に、この土砂降りの中を必死に帰る人が何人いるのだろう。
__頼子はふと駅の入り口にある太い柱に目を向けた。
そこには待ち合わせなのか分からないが、数人の人が柱に背中をあずけるように立っていた。
だまって見ていると、そこに彼や彼女が来て、ひとつの傘に身を寄せ合うように去って行く人たちの姿が見えた。
羨ましいと思ったわけではない。
けれど無意識にため息がもれた。
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