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五年前までは、頼子自身がそうだったせいかもしれない。
その頃、彼女には敏之(としゆき)という彼がいて、その男は雨が降ると、いつもこの柱に寄り掛かるように立っていた。
そして会社から帰った頼子をいつも傘ひとつで迎えに来てくれた。
そんな彼はバンドマンだった。
出会ったのはお互いに二十歳のころ。
大学の友人に誘われ、彼のライブを初めて観に行った。
ビジュアル系バンドの全盛期。
少なからず興味があったので、誘われるまま観に出掛けたのだが、幼い頃からピアノを弾いていた頼子からすると、彼らの演奏には何の魅力も感じなかった。
しかし何事も誘われると断れない頼子はこのライブのあと、友人に誘われ、彼らの打ち上げにまで同席することになった。
敏之はそこで、熱っぽく将来の夢を語っていた。
俺は絶対ビッグになる。
そんな事を人前で声高に語る敏之には野暮ったさを感じたし、ありふれた夢だな、と彼に対してはなんの興味も抱かなかった。
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