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結局同じ店にいることができなくなり、サインだけ残して逃げだす羽目になった。
迎えに戻ってきたマネージャーの車に乗り込み、外の喧騒をシャットアウトする。
座席にもたれかかるようにして体の力を抜く。
気持ちが落ち着いてから、マネージャーの宮田に声をかけた。
「悪かったね、宮田」
「別にかまわないですよ。 ていうか、僕、本当にここにいていいんですか?」
「頼むよ。 適当な理由をつけて途中で抜け出さなきゃいけない状況を作ってくれ」
俺はマネージャーが運転する車の後部座席で手紙を読んでいた。
最近は仕事もファンレターの数も増えたが、デビューしたての頃から路上ライブに来てくれていた人たちからのファンレターには、どんなに仕事が忙しくても必ず目を通している。
特に、毎回地味な茶封筒で送ってくる三十代くらいのファン。
テレビ出演した時やライブの後は必ず手紙を送ってきてくれる。
丁寧な言葉づかいで、毎回タイプされて送られてくる手紙。
ギャル文字や顔文字が混ざった感情むき出しのファンレターからは浮いているため、すぐに誰からの手紙か分かる。
「その人、知り合いかなんかなんですか?」
「いや、分からないんだよね。 毎回タイプされてるし、送り主も書いてないし。 不思議な人だけど、なんかいいよね」
「あ、ここです。 店の人には話をつけてあるので、裏口から入っていけますよ」
「個室だよね?」
「もちろんっすよ!!」
宮田が情報網とコネを駆使して抑えた店に移り、宴会を再開する。
どんちゃん騒ぎの中、中学時代にはあまりつながりのなかった連中まで俺の周りに集まり、俺を質問攻めにした。
「すげえよな、ライムライト。 レギュラーの冠番組、今何本持ってるんだよ?」
「五本だよ。 そのうち四本は深夜だけど……」
「いいよなぁ。 お前は昔から頭が良かったし、何やってもうまくいくだろう? 俺なんか適当な大学行ってフラフラしちゃってさ。 つまんねー毎日だぜ」
「大人気だもんねー、内田君」
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