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「中学時代の同級生なんだって、自慢しちゃったことあるよ」
俺はただ愛想笑いを浮かべながら頷く。
こいつらは何も分かっていない。
適当な大学に行ってフラフラしていることが、どれだけ自由で最高の時間なのか、こいつらには理解できないだろう。
毎日スポットライトの下に立ち、視聴者や観客を笑わせることがどれだけ難しい事か、こいつらは分かっていない。
若手はどんどん上がってくる。
一度天下を取ると、そこからおちぶれる恐怖が襲ってくる。
ある日突然番組が打ち切りになり、世間から忘れ去られる悪夢は何回も見た。
そしてついに、俺が一番聞きたくなかった言葉が飛び出した。
「でもさ、お前って、中学のころからお笑い芸人になりたかったんだっけ?」
「あれ? 映画、とか言ってなかった?」
これが嫌だったからここには来たくなかったのだ。
顔に出ないように笑いながら、曖昧に返事をする。
「うん、まぁね。 色々あって……」
確かに、中学時代は映画産業に携わりたいと思っていた。
そして、今でも思っている。
進学した大学でもメディアに関する授業を取りまくっていた。
だが、無理やり勧誘されて引きずり込まれたお笑いサークルでコンビを組み、はたまた馬鹿な相方が勝手に応募してしまった笑神コントグランプリで準優勝。
大学に在籍しながら売れっ子になるという、奇妙な状態で芸能界に居座っている。
それでも映画に対する未練は大きく、コンビ名はチャップリンの映画、ライムライトからつけた。
ちなみに、未だに相方はライムライトを見ていない。
それからもいろいろと聞かれたが、俺は面倒くさくて大してちゃんと答えるでもなく、曖昧に返事を返していた。
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