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考えているうちに、また彼女のそばにすりよって行きたくなる自分に気付き、軽い咳払いでよこしまな願望を追い払う。
思春期真っ只中の高校生の時分だって、こんなにお盛んじゃなかったぞ。俺。
高校の卒業式の日、もう寸前まで来ているのに全然役に立たなかった自分のことを思い出す。
あの時はあの時で不思議だった。アルコールが入っていたからだと思っていたんだけど。
ふと、キッチンにいる陽香の姿を覗き見る。
あのシンク前のスペースに彼女を追い詰めて、太ももに指を這わせて……と考えただけで、普通にもう一回頑張れる。
ある程度飲んでいても、たぶん。
これまでだって何度も思ったけど、陽香じゃなければ誰の何だって、同じだもんな……。
やらしい意味でなく、本当に、心からそう思う。
いや、俺が思い描く時点でなんでもいやらしいと言いそうだ。陽香なら。
妄想の中で陽香に軽く罵倒されてさえ幸せだなんて、ちょっと本当に変態入っているというか。本気で、どうかしている。
でも、相手を定めるというのはすごいことだとつくづく思った。
世の中の、“自分が一番不幸です”って顔をしている人間全員の前に、運命が現れてしまえばいいのに。
それに価値を見出せない人間には何の意味もないことかも知れないけど。
たったひとりの誰かを好きになって、愛して愛されて、頭の中ピンク色になってしまえばいい。
そうすれば、報われなかった時間に培ってきた、どうしようもなくぬるついて足元に纏わるドロドロした闇も、何となく可愛いものだったんじゃないか──なんて。
そうして、割と楽に許せるものだと気付くことだってできるんじゃないか。
完全に赦すことは難しくても、自分の一部だから仕方ないか……と、肩をすくめてゆるく笑うことくらいできるんじゃないか。
まあ、それを失ったら更にひどい場所に叩き落されるかも知れない不安は付きまとうけど。
それでも、何も知らなかった頃よりは少しはマシなんじゃないか──なんて。
俺、楽観的過ぎるかな。
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