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たぶん、慣れはしても当たり前とは思えない気がする。
ずるずる……と身体をずり落としていく陽香がもどかしくて、結局いつもの場所に移動する。
逃げようとする様が見たい。もがく様も見たい。
リクライニングチェアじゃ、スペースが足りない。
「仁志くん……やっ、もう……」
俺の性急な求め方に呆れているかのような目をしながら、その奥に期待も見え隠れする。
いつもは優しくて可愛くて純粋で──ただそれだけのように見える、どこにでもいるような女の子なのかも知れないんだけど。
口では抵抗しながらも、口唇が開いてる。
目をそらしながらも、指が誘ってる。
こういう時にだけ見せる彼女の魔性が、堪らなく俺を蝕んでいく。
触れれば堕ちていくだけと判っているのに、どうしようもなくその虚無にも似た解放が欲しくて堪らなくなる。
そんなことを考えながら、どこまでも貪欲な自分に苦笑する。
……馬鹿みたいだ……。
もう、知り合ってから何年経つんだよ。
間に開いた時間の方が長いから、そんな考え自体馬鹿げているんだけど。
こうしてやわらかい身体を抱きしめて、顔を埋めて、嘗めて、噛んで。
未だに、いつも初めてそうした時みたいな眩暈を感じるだなんて、どうかしている。
その感覚が名誉なことなのか不名誉なことなのかさえ区別がつけられないくらい、これはマイノリティな現象だ。
愛してる、って言葉が色褪せて陳腐に思えるくらい、溺れて溺れて。
普段、理性を保っていられるのが不思議で仕方ない。
……ああ、そうか。
──俺にとっての非日常の扉が、陽香なんだ。
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