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「仁志くんが言うなら、また伸ばそうかな……」
まだどこかぼんやりした様子で、陽香が天井を見ながらぽつんとつぶやいた。
その指先が、肩までの自分の髪をいじっている。
「本当?」
「うん、切ったのもホントは大した理由、ないんだ。手入れ面倒かな、って思っただけだし」
「手入れが面倒なら、俺、毎晩ブラッシングしてあげてもいいよ」
「え? いや、それは別に……」
言いながら陽香は俺の顔を見、赤面する。
「何、赤くなってるの」
「ううん、いや、なんか。そんなのどうだろうって思って」
「だって、俺が伸ばして欲しいってお願いしてるんだから」
「……恥ずかしいよ、そんなの。自分でできるもん」
それを聞いて、俺の胸の中に妙な悦びが湧き上がる。
俺の為に伸ばしてくれる髪を、自分で手入れするという陽香。
まるで、自分の身体の面倒を見てくれる、なんて言われた気になってしまう。
こういう悦びに浸る時、俺は自分でも思う。おかしいんじゃないの、と。
確かに、俺の人生には苦いことを拾わなければならないっていう経験が多かった。
でも反面、こうして身体の中から浸食されてしまいそうな悦びを得ることもあって。
そのスイッチがだいたい陽香であることには違いないんだけど。
下手したら、安易に身体を深く交わらせるよりも溶けていきそうな気持ちになる。
……まあ、そのまま身体も交わらせるのがほとんどだけど。
どうしようもなく淫蕩を好む自分の性に呆れながらも、幸せであることに感謝してしまう。
「……ありがとう。でも、たまには俺にもさせて」
「仁志くんが言うと、いやらしいよね……。やらしい、じゃなくていやらしい」
「二度言わなくても」
「言われたところで、ちっともこたえてないでしょう?」
「まあ、陽香になら何言われても都合よく変換する自信はあるかな……」
「なあに、それ」
クスクスと笑いながらも、陽香もまんざらでもなさそうで。
否定されてもされなくても、幸せだ……とまた浸りたい気分になる。
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