監察日誌:悲劇の行方

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***     そのまま監察室に戻ると、勢いよく扉を閉めて鍵をかけた。本当はいつ水野くんが来てもいいように、開けておかなければならないのだが―― 「鍵をかけたのは、あの日以来、か……」  俺は額に右手を当て、静かに目を瞑った。  それは……山上が水野くんと付き合うことになったと、告げられたあの日――  山上が去ってから直ぐに、デスクに置かれている書類をすべて、床に払い落とした。それだけでは気がおさまらず、扉に鍵をかけてから、本棚に綺麗に整頓されているファイルや本を、力任せに次から次へと、足元に落としまくった。 「言葉にしないと、伝わらないことくらい……分かっているさ。でも俺は……くっ」  そのまま、床に散らばる本の上に跪いた。自分の弱さに呆れつつ、同時に怒りがふつふつと沸き上がり、上手く処理が出来ない。  水野くんが好きだという気持ち以上に、自分がキズつきたくない気持ちが勝ってる時点で、山上に負けているというのに、それすらも認めたくなくて。  山上が変な輩に追われたときも、全然水野くんは悪くなかった。なのに責めるような言葉を、吐いてしまった自分。 「好きなのに……どうして、素直になれないんだろう?」  そして山上が、瀕死の状態の:現在(いま)――俺の心の中でぶら下がった感情について、顔をしかめていた。その感情が、綺麗か汚いかなんていうのは言うまでもなく。 「自分がこんなに、卑しい人間なんて……ホント情けなくなるな……」  ギリッと奥歯を噛みしめて、横にある壁を拳で叩きつけた。次の瞬間、ポケットに入れたスマホが振動する。 「はい……関です。そうですか、分かりました」  平静を装い、そのまま通話を切った。  頭が一瞬真っ白になり、何も考えられなくなったのに、それでも体は無意識に閉じられた鍵を開けて、水野くんを迎える準備をする。  ――山上が死んだ――  この事実を水野くんに伝えることが、俺に出来るだろうか?  フラフラしながら椅子に座ると、両目から止めどなく涙が溢れてきた。俺は眼鏡を外し頭を掻きむしりながら、デスクに顔を伏せる。 「俺が……俺がこの仕事を、山上に頼まなければ……死なずに済んだのに。水野くん、済まない……」  泣いたところで、山上が戻ることはないのに、自責の念やいろんな感情が相まって、涙が溢れて止まらなかった。 「もうすぐ……水野くん、来るんだから。俺がしっかり……していないと」  気持ちを無理矢理切り替え、頭を左右に振った。ポケットからハンカチを取り出して涙を拭っていると、ノックもなしに大きく扉が開く。  その音に驚いて立ち上がった俺を、息を切らした水野くんが、目を大きく見開いて見つめた。 「……関、さん?」  らしくない姿に、かなり驚いたんだろう。水野くんがとても小さい声で呼ぶ。  重たい体を引きずるように、やっと椅子から立ち上がり、水野くんの傍に向かう。 「取り乱した姿をして済まない。山上から話は聞いている。無事に届けてくれて、有り難う……」  俺が右手を出すと水野くんはその手に、USBをそっと置いた。それをぎゅっと強く握りしめてから、傍らにある金庫に入れしっかり施錠した。 「一緒に……警察病院へ行こうか。山上が待っているから」  俺は水野くんの返事を聞かず、強引に左手首を掴むと足早に歩く。 「山上先輩……無事、なんですよね?」  その言葉に、すぐには答えられなかった。その代わり掴んでいる手首を、更に強く握りしめる。  俺の雰囲気を悟ってかそれ以上何も言わずに、水野くんは引っ張られたまま車に乗り込むと、一緒に警察病院へ向かった。
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