監察日誌:悲劇の行方

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***     山上が亡くなった日、俺はちょうど監察室で所轄の署長を呼び出し、込み入った話をしていた。  署内の汚職捜査が大詰めとなり、検挙すべく被疑者をリストアップし始めたからだ。それに伴い、署長にも何らかの沙汰が下されるので、覚悟しておくようにと伝えるために話をしている最中、上着のポケットに入れてるスマホが振動した。 「はい、関です。珍しいな、こんな時間に連絡くれるなんて」  大抵は俺のトコにやって来て、直接報告していた山上。スマホでの連絡自体が、かなり久しぶりだ。 『緊急事態……発生、なんだよ。悪い、ドジった……』 「どうした? 怪我でもしているのか?」  聞いたことのない震えるような声色に、すぐさま異変を感じとった。 『察しが早くて助かる。三発、くらっちまった……相手はマル暴の、下っ端かな。早く手配、しないと、消される、ぞ』 「分かった。救急車の手配は?」 (山上ほどの男が、どうして三発も弾を食らうんだ? もしかして、水野くんをかばった!?) 『水野が全部、やって、くれたから。今な、そっちに、向かわせてる。バックアップ、しといた資料、水野が届けるから。そこに、いてくれ』 「ああ。待っていればいいんだな……達哉、しっかりしろよ? まだ俺たちの事件、解決していないんだから」 『わ~ってる、大丈夫。だから……』  中途半端な状態から、ぷつりと通話が切られてしまった。異変を悟られないよう、気を利かせて切ったのか、あるいは――いや、これは考えてはいけない。こんな不幸、あってたまるか。  それよりも所轄だけで、何とか終わらせようとしていたこの事件が、発砲事件で大ごとになってしまった……自分の保身のためなら、どんな汚い手を使ってもいいというのか。くそっ!!  右手に拳を作り、膝頭をガツンと殴ってみたが、怒りはどうにも収まらない。 「署長……このヤマが発砲事件に、発展してしまったようです。減給どころの騒ぎじゃ、なくなってしまいましたよ」  俺の言葉に、スッと署長が青ざめる。首でもきれいに洗って、待っていればいいんだ。    そう思いながら、監察室を後にした俺はその足で、捜査一課に出向いた。 「これは――」  いつも以上に、活気のある捜査一課内――休んでいる者は、誰一人としていなかった。めまぐるしく出入りする捜査員に、ひっきりなしに鳴る電話。  山上の上司、林田さんがスマホを片手に、こちらへ走ってやって来た。 「関さん、たった今、山上が警察病院に搬送されたそうです」 「そうですか。容体はどうでしょうか?」 「意識不明の重体だそうです。撃たれた直後、俺に電話してきたんですよ。山上のヤツ……」 「自分にもきました。大丈夫だからって」  肩を落として俯くと、背中をバシンと一発、強く叩いてくれた林田さん。 「捜査一課総出で、絶対に被疑者確保しますから。そんな顔していたら、山上にこっぴどく叱られますよ」 「すみません……俺はこれから水野くんが、重要書類を届けてくれるので、ここで待っています」 「俺は急いで、警察病院に行ってきます。山上に、気合の念を送ってやらなきゃ」  真っ赤な目をして柔らかく微笑むと、走って出て行った。  俺はもう一度、捜査一課の動きを見てから、急いで監察室に戻る。待つことしか出来ない自分が、一番もどかしかった。
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