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白衣のポケットからおもむろに取り出したのは、一本の缶コーヒー。
「テラスって、この寒空の下でですか?!」
いくら今日が綺麗な快晴だと言っても、11月下旬。6階の屋上に吹きつける風の冷たさは半端ない。
「寒いの平気だから」
「平気って…」
「でも、時間無くなっちゃった。検査行かないと」
私の言葉を待たずに、眼鏡のブリッジを人差し指でクッと上げて先生が言う。
「はぁ…そうですね」
「これ、あげる。まだ温かいから」
彼が放つ不思議な空気に押されっぱなしの私に、先生が缶コーヒーを差し出した。
目の前に下りて来た珈琲をまじまじと見つめる。
「大丈夫。毒は入ってないから」
目尻を下げて先生が微笑む。
「それは分かってますよ。…ありがとうございます」
彼の笑みにつられるように、私もクスリと小さく笑い遠慮がちにそれを受け取った。
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