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「それじゃ」
先生は素っ気ない言葉だけを残し、スタスタと階段に向かって歩き出した。
「……」
私は呆気にとられながら、ただその大きな背中を見つめている。
手の中には、先生の体温が加わった缶コーヒー。
「何だったの?今のやり取りは…」
『君は僕と似てるね』 『僕がキライ?』
彼の発した言葉を頭の中でリピートするほど、訳が分からない。
そして、幼い子供に見せた柔らかな笑顔を思い出すたび、胸の奥深くがキュンと切ない音をたてる。
私、からかわれたの?
でも…よく分からないけど、そんな人ではない気がする。
第一に、こんな陳腐な女をからかう意味も無い。
「いや、やっぱり、頭のイイ人の思考回路は凡人では理解不能ですから」
握った缶を見つめ、声を落とす。
面会フロアに設置されたテレビからは、香取慎吾くんの声が反響して聞こえてくる。
「また、貰っちゃった。――私、ブラック飲めないんだけどな」
先生が姿を消した階段に視線を戻し、複雑な心境に捕らわれながら小さな笑みを浮かべた。
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