第4話 【屋上のひだまり】

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「結局、先生に声かけられなかったな…」 屋上の大きな窓ガラス越しに見える、抜けるような青空を眺めて呟きを落とした。 ここは、南棟の屋上にある広々とした交流フロア。ウッドデッキテラスと繋がるお洒落なカフェに、フロアの中央には自由に飲食可能な面会スペースがある。 散歩がてらくつろぎに来るパジャマ姿の患者さんや、その家族や知人が集まる憩いの空間だ。 その賑わう一角から離れた、フロアの右端にひっそりと置かれた長椅子。正面の屋上が一望できる大きな窓ガラスからは、冬でも暖かな陽射しが降り注ぐ。 私はこの椅子に一人座り、持参したお弁当を食べながら60分間のランチタイムを過ごすのが日課になっている。 今日のメニューは卵焼きとウインナー、それと、昨夜バイトでタダで頂いてきた煮物に鳥飯が形を変えたおにぎり二つ。 ――先生、午後から検査に入っちゃうから、午前中のうちにビールのお礼言いたかったのに…。 膝の上に乗せた弁当箱から小さなおにぎりを取り出し、ため息を吐いたついでに三角の先を口に含んだ。 午前中、昨日のプレゼントのお礼を言おうと声を掛けるチャンスを狙っていたが、ステーションには常にスタッフの誰かがいる上に、一週間分の点滴や内服薬の指示を出すので忙しい月曜は、特に話しかけ辛い。 ナースとは違い、立場的に世間話的な話さえも気軽に出来ない私は、まるでストーキングするかの様に先生を目で追うだけで半日を終えてしまったのだ。
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