25人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
言い忘れていましたが、一二三(ひふみ)屋ってのは、私の店の名
前なんです。
一歩目二歩目三歩目、つまり、最初に歩き出したの頃の苦労を常に
忘れず、って意味合いをこめてつけたんですが、今考えてみると
ちょっと格好つけすぎてますね。
久しぶりにその名前で呼ばれたもんだから、えっ!?って思ってカ
ウンターの方を振り向くとね。
若い男が立ってたんですよ。
髪の毛は鳥の巣みたいにボサボサで、瓶の底みたいな眼鏡をかけ
て、よれよれのシャツにズボン。
なんか妙な雰囲気の奴が、いつの間にか突っ立ってたんです。
おかしいな、扉を開ける音を聞き逃したのかな?
なんて思いながら、
「へい、なにしやしょ」
って、いつもの感じで聞いたんです。
「玉子丼で、お願いします」
声は小さいけど、丁寧な口調でしたねえ。
何と言いますか、妙な男ではあったんですが、決して嫌な感じはし
なかったんですよね。
最初のコメントを投稿しよう!