第一話 大衆食堂にて

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言い忘れていましたが、一二三(ひふみ)屋ってのは、私の店の名 前なんです。 一歩目二歩目三歩目、つまり、最初に歩き出したの頃の苦労を常に 忘れず、って意味合いをこめてつけたんですが、今考えてみると ちょっと格好つけすぎてますね。 久しぶりにその名前で呼ばれたもんだから、えっ!?って思ってカ ウンターの方を振り向くとね。 若い男が立ってたんですよ。 髪の毛は鳥の巣みたいにボサボサで、瓶の底みたいな眼鏡をかけ て、よれよれのシャツにズボン。 なんか妙な雰囲気の奴が、いつの間にか突っ立ってたんです。 おかしいな、扉を開ける音を聞き逃したのかな?  なんて思いながら、 「へい、なにしやしょ」 って、いつもの感じで聞いたんです。 「玉子丼で、お願いします」 声は小さいけど、丁寧な口調でしたねえ。 何と言いますか、妙な男ではあったんですが、決して嫌な感じはし なかったんですよね。
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