第八集 「食と共にある二つの話」

第一話 大衆食堂にて

一流歌舞伎役者が飯を食うと、こんな感じだろうな。

私も何十年と食べ物屋をやってきましたが、こういう食べ方は今ま
で見たことがなかったねえ。

それでそのお客、どんぶりの中のご飯粒一つ残さず食べてしまう
と、やおらに立ち上がって、店の奥にある手洗い場へと入っていっ
たんですね。

それから数分して、大工の頭領が入ってきた。

ちょくちょくここで飯を食いに来る、数少ない常連です。

かなり急ぎの用らしくて、腹を抱えて真っ直ぐに手洗い場の扉まで
走っていったんです。

そういえば、鍵を閉める音がしなかったぞ！？

こりゃいかんと思って「人入ってるよ！」と止めるよりも前に、頭
領は手洗い場の扉を開けちまったんですよ。