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――戦乱の世。
そこには何があるのだろうか?
栄光? 名誉? 夢? 強さ?
血に塗れた道に果たして栄光なんてものがあるのだろうか。
数多の人間に憎悪されていて名誉なんてものがあるのだろうか。
血生臭い夢とは悪夢以外の何物でもないのではないだろうか。
恐れられ、畏怖され、孤独になることを強さというのだろうか?
ならば私は、そんなものはいらない。私が欲しいのはそんなものじゃないのだから。
私の夢。それは皆が笑いあえる、そんな世界。
戦乱の世において、人はそれを絵空事だと嘲笑(わら)う。
だが、私は信じている。何故ならば――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「――さぁ、ここまでだ。大人しく降伏しろ」
「ちっ……」
怒号飛び交う戦場、その一角、ずたずたに引き裂かれた白い虎が描かれた旗などの布の影に、二つの人影が対峙していた。
いや、すでに決着は着いているのだから対峙、と呼ぶのもおこがましいだろう。
「大人しく降伏すれば命までは奪わない。今すぐ兵達を連れて帰るんだな」
勝者の側、少年は淡々と慈悲の言葉を投げつけるとじっと対峙する男の顔を見下ろした。
そして、見下ろされた方、敗者は舌を打ちながらも自らの敗北を信じようとはしなかった。
「黄泉家が総大将、黄泉逢魔が家臣馬頭、敗走を選ぶぐらいなら死を選ぶ!」
「……そうか」
少年は古傷が多く刻まれた馬頭にグッと手に持った刀を突きつけながらそう呟いた。
その少年は顔を般若の面で覆い隠し、馬頭の喉元に突きつけられた剣を苦にした様子もなく片手で軽々と握りしめていた。空いた左手はいつでももう一振りの刀を抜けるように構えられている。
しかし、全身を黒い甲冑で覆った少年は目の前の将を見下ろしているからか、自分のはるか後方に輝く凶器に気付いていなかった。
ただ、その輝きが見える馬頭は逆転の機会を前に込み上げてくる苦笑を必死に噛み殺しながら
「命は奪わない。てめぇのその甘さが命取りだ、〝黒獅子〟ぃぃいいい!」
馬頭が吼えたのと同時、少年の後方から銀色に輝く何かが飛んだ。
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