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いつの間にか、自分の意志にすら気づかなくなっていた様だ。それと比べて彼らは。思い返せば全て恥ずかしい。
「描きたくないなら描くなよ。下手くそ」
「‥うん。ありがとう」
彼は僕に微笑んで、手を差し伸べてくる。それに応えれば、手に温かさが伝わってきた。
ふわりと体が浮く感覚がして、周りの景色が滲んでいく。記憶と僕だけになり、周りはただ白く淡く光るだけ。
自分に絵が描けなくて苛ついていたのかもしれない。好きな絵が描けていただった昔が、羨ましかったのかもしれない。
でも、それは。
「好きな世界を創りなよ。別に、誰も否定はしないんだから。自分が否定しちゃったら、僕たち可哀想でしょ」
「うん」
白に彼が溶け込んでいく。いつの間にか絡めていた指が、薄れて消えて。
不思議の国の猫のように、そこには微笑みだけが残って。
「君たちのせいにして悪かった。僕のせいなのに」
「別に。忘れないでよ、絶対」
声だけが響いて消える。僕の声と区別がつかないそれは、どこから聞こえたのか。
気がつけばそこは、見慣れたアパートの一室だった。
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