記憶の国

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 重い瞼を開けば、僕は一人、立っていた。  周囲の芝生と遊具に建物。どこかで見たことがあるそれらを、自分の通っていた幼稚園のものだと理解するのには、あまり時間を要さなかった。  ぐるり。一周辺りを見渡せば、あの頃を思い出す。初恋のあの子は、どこへ引っ越してしまったんだっけ。 「お兄ちゃん」  記憶を辿っている途中、ふいに声が聞こえた。聞き覚えのある声に、自分ではないと思いつつも、つい振り返ってしまう。  懐かしい幼稚園の制服を着た、小さな男の子。名札に書かれた名前は、間違いなく自分のものだった。  柔らかそうな黒髪、膝に貼られた絆創膏。いつかに見た、アルバムの中の自分がそこにいた。 「君は‥‥」 「ぼく、お兄ちゃんにね、会いに来たの」  そう言って、そいつは僕に笑顔を見せる。右下の前歯が抜けていて、思わず自分の歯を舌でなぞった。 「これ、上に投げたいんだ。でもね、ぼく、あんまり上手く投げれないんだ。だから、代わりにお兄ちゃんが投げてよ」  そう言って、僕に丸めたティッシュを差し出す。開いたら小さな乳歯とご対面。
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