記憶の国

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 僕が承諾すると、笑って大きく頷く。我ながら可愛らしいと思ってしまった。  出来るだけ、高く。彼の歯が丈夫に育つように、投げる。きっと迷信だろうが、お陰様で虫歯になったことは一度もない。  歯が遠くへ飛んで、見えなくなる。それを見届け、しゃがみ、彼と目線を合わせた。 「お兄ちゃんは今、はたらいてるの?」 「働いてはないけど、大学って所で勉強してる」 「そっかあ。ぼくね、大きくなったらね、絵を描きたいの。みんなを絵で笑顔にしたいの。卒園式の絵もね、ぼく描いたんだよ」  全部、知っている話だ。確かに僕はこの頃、ブラウン管に映る絵描きに憧れていたし、卒園式に飾る記念絵も描いていた。  だけれど、何故、ここに自分は二人いるのか。夢なら、ありえるのだけれど。もしかしたら、不思議の国、もしくはタイムスリップかもしれない。下らない妄想に苦笑する。 「そうか。実はお兄ちゃんもなんだよ。勉強しつつ、絵、描いてるんだ」 「そうなの? じゃあぼく、頑張ったんだ」  ああ、そうだな。  そう言おうとした瞬間、地面の揺れを感じた。足元から揺れている感覚が、どんどん大きくなっていく。  頭が振り子のように揺れ、気分が悪くなって目を閉じた。
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