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夕日のせいとは思えない妙な蒸し暑さに目を覚ませば、そこは懐かしの教室だった。ここは言われなくても分かる。中学校の美術室だ。
並べられた作品たち。手前のは大人しかったあいつので、奥のは隣のクラスのマドンナが描いたやつ。小学生の頃よりも鮮明な記憶に、僕は思わず頬を緩める。
「こんにちは」
ふいに話しかけられて、肩が跳ねた。前の二人と違って、少しかすれた声。今の声とほとんど変わらない。
「ここは言わなくても、どこか分かりますよね」
「中学校の美術室か」
そうです、正解です。
白い歯を見せて笑った。もう抜けている部分はなく、全て永久歯のようだった。
カーテンの隙間から射す、日の光。きっと夏休みだ。夏休みに、僕は毎日ここへ来ていたから。
「コンクール用の絵を描いているんですけど、どうも納得のいくのが出来ないんです。覚えてますか?」
「ああ、勿論。‥‥失礼だけど、君は誰なんだい?」
笑って、答える。僕はあなたですよ。と。
「こう言い換えることもできますよ。僕はあなたの記憶ですね」
「記憶?」
「あなたの昔の考え方、世界観、外見をひっくるめたものが僕だと考えてください」
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