記憶の国

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 じゃあ、今僕は、自分の<意志のある記憶>と話しているのか。  そう考えてみれば面白い。何故そんなことになったのか、思い当たる節はないが。 「最近、順調ですか?」 「あ、うん、まあまあかな」  とっさに嘘を吐いてしまう。そんな訳がない。昨日もコンクール用の絵が仕上げられず、彼らのせいにしていたのだから。  そんな僕の事情を知ってか知らずか、彼は微笑んで、絵筆に手を伸ばした。パレットには既に色が出ており、僕の好きな反対色の二色が離れて置かれている。  この時僕が好きだった着色方法で、彼の世界は彩られていた。最近はキャンパスに油絵の具を塗るばかりだったから、懐かしく思える。 「‥‥先程の話の続きですが。僕たちはあなたの正確な記憶です。あなたが忘れてしまった細かい記憶も、ちゃんと僕らが覚えているんですよ」 「君たちの存在に、意味はあるのか?」  この質問に彼は少々苦笑いしながら、オフコース、と答えてくれた。僕らを通して、今のあなたが在るんですから、と。  窓から風が吹き込んで、急に温度が下がった気がした。でも、目の前の彼は半袖。  いくら記憶とはいえ、自分が風邪をひいたら困る。‥‥記憶も風邪をひくのか分からないが。窓を閉めようと、立ち上がって、振り返った。
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