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言いたい事は、ふたつあった。
けど、その言葉を言おうとすると胸がずん、と重くなって、鉛を呑み込んだような重苦しい感覚が全身に行き渡って、喉の奥で言葉がぐしゃぐしゃに絡まって。
どうしても、言えなかった。
言えなかった言葉。
言わなかった言葉。
それを伝えなかった事を僕は後悔する日が来るかもしれない。
でも、それで良い。
それは、僕の心の一点の染みみたいにくっきり残る。
ずっと、覚えていられる。
それは、僕が僕に与えた罰でもあったんだ。
「七月ー、おまたせ」
緩やかに綺麗に巻かれた栗色の髪をなびかせて女の子が駆けてくる。
藤崎七月フジサキ ナツキ。
それが、僕の名前。
七月に産まれたからそう命名された。なんとも単純な両親だ。名前を呼ばれる度にそう考える僕はこの名前が嫌いなんだろうか。
くい、と服の裾を引かれて、視線をそこに落とす。
「遅れてごめんね?」
可愛く小首を傾げて謝る仕草は女性らしくて、たぶん、計算づくなものなんだろう。
僕は、できるだけ優しく微笑を浮かべた。
彼女は僕の恋人。
好きじゃないけれど、好きになろうと努力している人。
僕が僕に罰を与えた日から、7年経っていた。
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