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―――――――
「ねえねえ、なっちゃん!」
ああ、懐かしい呼び名だ。
その呼び名と、忘れたはずの高く澄んだはつらつとした声で、これが夢なのだと僕はぼんやり理解した。
僕は、公園にいた。
いつも幼馴染と遊んでた公園。
懐かしい光景、とうに忘れていたはずの公園なのに、夢はそれらを鮮明に映し出していた。
大好きなブランコ。
斜面が苦手だった大きな滑り台。
壊れかけのシーソー。
僕は瞼でシャッターを切るみたいにして、ひとつ瞬きをした。
「なっちゃんってば、聞いてる?」
ツインテールに、ピンどめであげられた前髪、好奇心に満ちた瞳。
それは、僕の幼馴染との記憶だった。
「…聞いてるよ。あいりちゃん」
今よりも幾分か高い少年の声。
声は小さく弱弱しい。
細い手足は青白くて、こんがり焼けた肌色の幼馴染―吉田愛梨ヨシダ アイリーとは酷く対照的だ。
そう、僕はどちらかというと根暗な性格で、家の中でゲームしたり本を読んだりしてる子どもだった。活発、なんてお世辞にも言えない。大人からは時たま困った表情をされる「むずかしい」部類の子どもだった。
保育園で知り合った愛梨に連れまわされるまでは。
「なっちゃんってば!!」
「なあに。聞いてるよ」
「うそつきー。今ぼーっとしてたでしょ」
ぷくっと頬を膨らませる愛梨に困った僕は、いつもここで謝ってしまう。
「…ごめん」
「えへへへ、ゆるしてあげる。
見て、なっちゃん!おっきな虹がでてるよ!」
太陽みたいにきらり、輝く笑顔の愛梨の指差す先には、大きな大きな虹があって、
でも僕は、そんな虹なんかより愛梨の笑顔に目を奪われてた。
紅潮した頬を気取られたくなくて、僕は虹を見た。
「本当だ、おっきい…」
「きれいだねえ!」
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