予兆

3/19
前へ
/35ページ
次へ
緊張が中途半端にほぐれたせいか、余計に指先の動きが鈍る。 「成田さん、これ頼んでいいかな?」 斜め向かい側から、上条さんの声がして、ハッとして顔を向けた そう言えば。いつも隣に市川さんがいたせいで、上条さんと二人きりの絡みなんてほとんど皆無だった 「はいっ」 私はウキウキして机を回り込み、隣まで受け取りに行く 「前から手渡しで良かったのに。」 「いえいえ。そんな、上条さんの為ならこんなことくらい」 嬉しくて顔が崩れているだろう、私は恥ずかしげもなくそう言った けれど。 上条さんの顔は、なんだか浮かない顔をしている。 「どうかしたんですか?」 どうしたもこうしたも言えた義理のない私が問いかける 「……いや。」 私の目をじっ、と見てから。 すぐそらされた
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4467人が本棚に入れています
本棚に追加