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緊張の一瞬。
先程のエレベーターでの事は、突然の不可抗力。
行き当たりばったり、の咄嗟の対応。
今回は心構えの時間が数分だけでもあっただけで、さっきとは訳が違う。
また、あの顔を見なきゃいけないのか。
そう思うと、パーテーションの陰に隠れて足が立ち止まってしまう。
田所さんが嫌いとか、そんなんじゃない。
田所さんのあの哀しそうな顔を見るたび。
自分が汚くて汚くてしょうがなくなるからだ。
田所さんが陽なら、私は陰。
汚れた存在の自分がみすぼらしく感じる、その実感が。――とてつもなく惨めで。
私だって。綺麗な恋をしたかった。
無邪気に。――好きって、笑いたい。
そんなことを思ったところで。
今は仕事中なわけで。
自分の都合なんて、関係ない
意を決して、足に勢いをつける。
「――失礼致します」
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