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夢から目覚めたとき、何もない原っぱの上に、仰向けで倒れていた。
太陽の光が眩しい。体が痛い。それもその筈だ。原っぱの上に…と言っても、それが生えているのは、温かい土の上ではない。妙に冷たい、コンクリートの上だ。
人間が蔓延っていた時代は、あんなに熱かったコンクリートが、今では、風邪の熱でさえ、冷めてしまいそうだった。
男は、首の骨を鳴らしながら、ゆっくりと立ち上がった。喉が渇れている。もう何日も水を飲んでいない。体が痛い。もう二度と、疲れたからといって、コンクリートの上では寝ないと固く誓う。
それにしても喉が渇いた。東京のアパートを出発してから、いったいどれくらい歩いただろう。いや、まだ崩れかかったビルや、錆びた鉄の臭いがする。きっとそれほど歩いてはいないのだろう。
人間が激減して、何年かは経った。今じゃ生きている人間は少ない。
自宅で静かにその時を待つもの、道端で酒を喰らうもの、そして、男のように、旅をするもの。
道は違えど、行き着く先は、結局同じなのだろう。ただその道中で、少しでも笑えたなら、きっとそれは上々な人生だ。
男の頭上に光が指した。太陽の光とは違う、なにか、温かい光。あれはなんだろう。すごく温かい。
そして、光は、男を包み込んだ。
「はあ…はあ…ここは?」
夢から目覚めたとき、何もない原っぱの上に、仰向けで倒れていた。
完
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