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弘美は5年前に流産して、ひどく悲しんだ。明るい性格で、お茶目な一面もあった。 だが、子供を授かりにくい体質であった為に胎児を失った落胆は大きかった。 「名前は、のぞみに決めたの。いいでしょ?」 笑顔で話す弘美は可愛らしかった。それが、みるみる生彩を欠いていった。 狭間は「だいじょうぶ。また授かるさ」と慰めたが、弘美は空を眺めて泣いていた。 「先生から、次に授かる可能性は低いと言われたの」 そんな事を妻に告げた医師を狭間は内心で恨んだ。 それ以来、弘美は感傷的になり、溌剌さを失ってしまった。 「それだけが人生じゃない。つまらない事で考え過ぎるな」と狭間が元気づけると「つまらない事とは何よ!」と口論になった。 「それなら実家に帰る」と弘美は泣きながら自宅を飛び出した事もある。 その2年後に思わぬ事態が待ち受けていた。弘美は乳がんの末期であると判明したのだ。 懸命に治療に励んだが、時遅く弘美は呆気なく旅立ってしまった。 狭間は、弘美がそうしていたように夜空を眺める事が多くなった。 新婚の当初は玄関で弘美から、よく引き止められた。 「あなた、待って! ハンカチは持ったの?」 「あっ、忘れた!」 「んもう。待ってて」 「ありがとう。それじゃ」 「待って! 行ってきますのチューは?」 南の空にオリオン座が輝いている。 冬の夜空で、最も美しいと言われる星座だ。
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