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シュパッ シュパッ シュパッ 左手首に装着したモバイルフォンがオレンジ色に明滅した。 友人の柏原からだ。 フック式の送受器を左耳にかける。 『狭間、今度の日曜は空いてるか?』 「いきなり何だ。挨拶は、こんばんは。ご機嫌いかがですかが常識だろう」 『あっ、そうだった。すまん。ご機嫌いかがですか?』 「ハハハ……冗談だ。飲みに行くなら都合をつけるさ」 『そうか。実は会わせたい人が居るんだ』 「選べない仕事の話なら断るぞ」 『いや仕事も無関係では無いが、プライベート だ。この話は、かみさんから頼まれた。会うだけ会ってくれないか?』 「会うだけって、それだけでいいのか?」 『あっ、すまん。かけなおすよ』 何か急用が出来たらしい。柏原は、あわただしく通話を切ってしまった。  2030年12月 狭間賢一は【イーター】に関する資料を鞄に収め、モバコンを閉じた。 彼は1990年の生まれで40歳になる。 壁に投影されたデジタル時計は、21時を示している。 狭間はバルコニーに出た。 真冬の冷気に包まれる。 壁のボタンにタッチすると喫煙室のドアが音もなく開いた。 透明な樹脂で囲っただけの簡素な喫煙室だ。 「煙草は換気扇の下か、外でね」 狭間は妻の言いつけを守っている。 バルコニーの広さは、およそ16㎡。喫煙室は、その半分の広さだ。 狭間はリクライニングの椅子を倒して煙草をつけた。 煙を感知した換気ファンが自動的に回転を始めた。
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