春待ち歌

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椅子の上で膝を抱えて座る。 パソコンの更新ボタンを忙しなく押している。 「咲?」 「ん?」 「大丈夫だよ。大丈夫」 怪訝そうな顔で僕を見る。無理もない、僕だってその言葉に何の根拠もないのだから。 咲の表情が僕を刺したが、負けずに何度も頷いてみせた。根負けしたのか、漸く笑顔を作る。 昨晩降りだした雨が雪に変わり、外の音を消していた。 「あ、始まった…」 国立一本なので保険はない。 パスワードと受験番号を入力する。 下を向き、抱えた膝におでこをつけて右手を伸ばす。 結局、僕に見させる気だ…… 「…どう?…あった?」 「うん」 「え?」 「うん、合格って書いてあるよ!咲」 首を伸ばし、自分の目で画面を確認する。それから椅子の上に立ち上がり両手を上げる。 画面と僕を交互に見る。上げた両手の下げ時を見失っている。 「やったじゃん。おめでとう!!」 恥ずかしそうにゆっくりと両手を下ろし、「うん」と小さく頷いた。 「もう椅子から降りたら?」 笑ってそう言うと、また恥ずかしそうに頷いた。
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