春待ち歌

5/10
前へ
/10ページ
次へ
椅子から降り、窓辺に立つ。 もっと2人とも、喜びに弾けていいのだけれど。 「何だろ?」 「どうした?」 「…うん」 会話が噛み合わない。 1年間必死で頑張ってきた。その結果が出たというのにお互いぎこちない。 窓に息を吹きかけ白く染めている。それが溜め息にも見えた。 「ねぇ、出掛けない?」 「外、雪だよ」 「…だよね」 咲は、僕より1つ年上だ。 これで、4月から東京の大学へ行くことが決まったわけだ。 離れ離れにはなるけれど、そのことはもう充分話してきた。 「やっぱり出掛けよう」 「雪だよ。今、自分で言ったくせに」 「そうだけどさ、冬だから雪は降るんだよ」 「何それ?」 笑顔が戻る。僕の隣に座る。僕の手を握る。 見られているのは分かっていた。だからどうしても僕も笑顔でいなくちゃいけない。 たぶん、悪いことばかりじゃないと思う。 「大丈夫そ?」 僕は1日だって君を想わない日はないだろうし、 「ゴメンな。寂しいのは同じなのに、気を使わせて」 たぶん僕は、もっともっと君のことが大切になるんだと思う。 「いいよ、私、年上だし」 もっと。きっとそう、もっと。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加