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その日が来て、僕は咲の荷物を持ち、二人で駅に向かった。
花壇の前を素通りする。まだ少し怒っているのかな?
黙っているから、僕もそれに付き合った。
ホームに着くと、ちょうど電車が入ってきた。咲はそれに構わずベンチに座る。
次に来た電車も見送る。半身をホームに下ろした車掌が僕たちを訝しげに見ていた。
例えば声を掛けるとか、例えば手を握るとか、どれも怖くて躊躇してしまう。
携帯を弄っていた咲だけど、気づくと向かいのホームを見ていた。
彼女の視線を追う。
そこには父親と母親、その間に3歳くらいの女の子がちょこんと座っていた。両親の顔を幸せそうに交互に見ている。
時折、母親の耳元で何か囁いては一緒に笑っている。
「何か、いいね」
咲が穏やかにそう言った。隣に座った僕の足に手を置く。
「昨日からゴメンね。こうでもしていないと、何か甘ったれたこと言いそうでさ」
「次の電車で行くね、私」
「うん」
僕も立ち上がる。そこに電車が入って来た。
「じゃ」
無理に口角を上げ笑ってみせた。
距離なんて大した問題じゃない。
想いがいつだって僕らを繋げてくれる。
「そばにいるからさ、いつだって」
歩きだした咲を止めてしまった。余計だったかも知れないが伝えずにはいられなかった。
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