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「離れるのも、きっとこれが最後だよ」
そう言った僕に、咲は何も答えなかったが、止めていた足を前へ進めた。
電車に乗り込み、こちらを振り返る。
扉が閉まる。
その時の咲の表情は今でも忘れない。
…いろいろなものが一杯詰まっていた。
動き出した電車の窓に顔を近づけて僕の姿を追う。
バ~カ
最後にそう口元が動いたように見えた。
彼女なりの『がんばれ』なんだと、都合良く受け取った。
電車が右にカーブを取り見えなくなる。
「よし」
ホームを繋ぐ高架を僕は駆け上がる。
未来への分岐点は、いつだって今の一歩なんだ。
駅舎を出ると景色が違って見えた。
奥歯にギュッと力が入るのを感じる。
雪は融けていた。
渡る風はもう、春そのものだった。
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