Footbridge

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クレーンが一斉に挙手して この歩道橋を影で覆い尽くした 一昨日の雨が乾くこともなく 今もまだ排水溝は湿ったままで セピア色の街角に残る 野外ホールの竣工は昭和の末 あの頃はきっと華やかで 猫より人の方が多かったんだろう 楽屋の入り口に描かれた スプレーは夢見る若者の絵馬 そう隣の老夫婦が教えてくれた 今となっては壁当ての的らしい 古ぼけたベンチに もうペンキの匂いは残ってない 僕の生まれる遥か昔 遥か昔 思い出の染みがこびりついてる 陽を浴びるための公園も いずれ陰の中に埋め込まれて 蒸発する機会すらないままに 雨の粒も土に溶けるんだろう 若い頃はここに登れば 遠くの駅も見えたもんだと 老夫婦は付け加えてから去った 今はもうクレーンの影の中で
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