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この信号が青になった瞬間、たった一人のレースは始まる。バックミラーの下に取り付けた高性能デジタル時計の時刻を確認する。1時59分32秒。
タイムアタック。スタート地点のこの信号から、終着点の信号までの短いコース。彼の最速タイムは13分27秒。そして最速レコードは11分56秒。抜けないタイムではない。今日こそは抜く。そして信号が青になった。同時にアクセルを全力で踏みこむ。
僅か3秒ほどで時速100キロに到達する。そしてそのまま120キロへと突き進む。
加藤の全身が総毛立つ。心臓は恋するピュアボーイのように五月蠅く鼓動を刻み始めた。
「そうだよ、この感覚だ」
思わず呟く。日常では味わえない圧倒的恐怖と緊張感。高速道路ではない、バイパスとはいえ僅か一車線しかない一般道。通らないとはいえ、僅かながらも車は通るし、合流してくる車もある。対向車も考えそれをかわさなければならない。ほんの僅かなミスで重大な事故となりかねない危険走行。しかし加藤はそのスリルに魅入られてしまった。故に走る。
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