第6話

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4  NY ブルックリン。  薄暗い部屋で、デービス=ウッズマンはデリバリーの昼食を食べ終え、一人静かに事務所の奥でインターネットを楽しんでいた。彼はカタギではない。とはいえこの大都市NYでチンピラではないが悪党と呼ばれるほど法も犯していない、ギャンブル好きの裏社会のなんでも屋で多少名前が知られている……その程度だ。  そこに突然の訪問者が現れた。  彼の事務所には、二人の舎弟に番をさせていた。血気盛んなだけで頭の足りないの若造たちで、腕っぷしはデービスより上なのだが、そこは先輩後輩の縦社会……デービスは上手に言い含め先輩としての顔を潰すことなく彼らを護衛のように使っていた。ギャンブルでトラブルになった時もこの頭の軽い後輩たちのおかげで事を上手に収めてきた。  何てことのない、ただの昼…… の、はずだった。  突然事務所の若造たちが騒ぎ出したかと思うと、ドタバタと激しい物音が響いた。 デービスは顔を上げ、そっと机の中から小型リボルバーを取り出しズボンのポケットに入れようとした……まさにその時、ドアが開いた。 「!?」  デービスはそこに現れた人間を見て、思わず凍りついた。  なぜこの男がここに!? 訳が分からない……  彼にとって、その男の出現は白昼の龍の蛇行であった。 「なんだその銃は?」 「ア、アンタ! ミタスー・クロベ!?」  ユージは無言のまま堂々と入ってきた。恐ろしいことにユージの右手は懐中のDEのグリップを握っている。それに気付いたデービスは何が何だか分からず目を泳がせる。とにかく銃を持っていては殺されると思い、すぐに足元に銃を落とし外聞も何もなくその場で手を上げた。 「待て! 俺は何もしてないぞ! 大体なんでアンタがこんなトコにいるんだ!?」  デービスは叫ぶ。何故、天下のユージ=クロベFBI捜査官がやってくるのか検討もつかない。彼は、歯向かった者は問答無用で射殺す<死神>の異名をもつ裏世界S級ランクの人間だ。彼が<殺しのライセンス>というべき権利と勢力を持ち怖れられているのは、裏社会だけではなく表社会でも暗黙の了解があるからだ。この謎につつまれたFBI捜査官は、裏社会のマフィアのボスからホワイトハウス、国連本部まで顔パスで通るといわれている。デービスから見れば雲の上のスーパースターだ。そんな男がこんな下っ端のなんでも屋に何の用があるというのか。
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