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……彼女には聞けない。やはり自分が行くしかないか……
「……化け物……」
「?」
その時……彼女は呟いた。
「え?」
「皆……狂った……みんな、化け物になったの」
「………………」
それだけいうと、樺山は頭を抱え蹲った。
……みんな、化け物……?
拓にはまるでその意味が分からない。
呻き声が響く。
もはやこれは人といえるのだろうか…… 徘徊する男や女……彼らにはもはや意識というものがあるのだろうか……?
ある者は狂ったように壁を叩いては、奇声を上げている。
ある二人の男たちは、もはや反応しなくなった死体を何度も叩きつけている。
ある者たちは、ふらふらと壁にぶつかりながら駆け回っている。
路上に転がる死体は、ぱっと見るだけで4体…… 一方異常な状態になっている人間はざっと見て12人……
「数があわん…… もう何がどうなってるんじゃ?」
サクラは、静かに一軒の家の屋根に飛び移った。誰もサクラの気配に気付いていない。
「まさにゾンビね…… くそ、飛鳥の勝ちか」
さすがに色々な事件に遭遇してきたが、今回の事件は間違いなくサクラにとっても特異なレベルとなった。
徘徊する人間は、とても普通には見えない。
ただ理性を失っただけではない。ほとんどの者の目は瞳孔が開き、肌は大きくただれたり窪んだりしている。さらに、中には腕や足があらぬ方向に曲がっている者や大きな外傷を負った者までいるのだが、まるで痛みなど感じている様子はない。
彼らは死んではいないのだ。
その点、世間でいう「ゾンビ」とは違う。だがよく見れば何人かに人の噛み跡や引掻きキズが見えた。見た目は世間でいう「ゾンビ」そのものだ。
「体温ややや高め……だけど顔がただれたり、真っ青だったり……間違いなくなんらかの病気…… さすがのサクラちゃんもこれは専門じゃないんだよね、ここまで来ると……ホント、なんじゃこいつら」
全く分からないわけではない。この症状は知っている。
サクラはこれと同じ症状を持った犬を地下で撃ち殺してきたところだ。
「……………………」
サクラは立ち上がった。もはやこの住宅地でまともな人間はいない。それは、透視能力をセンサーのように広げ全体の気配で確認した。
「!?」
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