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眩しい
右手を使って、強烈な光を遮る
指の隙間、うっすら開けた目に差し込むみかんの色
とても綺麗な、夕日だ
「今日も綺麗だね」
左手が握られる
そこで漸く気がついた
俺は誰かと並んで、夕日を眺めていた
「うん…」
搾り出すように呟く
胸が苦しくて、それ以上言葉が出ない
せめてもと手に力を込めると、相手も強く握り返してくれた
胸の苦しみは一層大きくなったが、俺は嬉しくもあり、少し気恥ずかしかった
「…もう直ぐ、お別れだね」
顔を夕日からはなす
手を繋いでいたのは、女の子だった
白いキャミソールが夕日でみかん色に染まっていて、左胸についた太陽のアップリケと同化している
伏し目がちなの顔には前髪がかかり、表情はよく見えない
しかし声に含まれる震えが、彼女が泣いているのを俺に教えてくれた
「な、泣くなよ…」
「だって…、だってぇ…」
俺だって泣きたい
でも男が泣くのはカッコ悪いし、何より彼女に泣いている姿を見せたくない
「また戻ってくるから」
「…いつ?」
「それはえぇ~と、…いつか…」
いい加減な事を言っていると思う
でもこうでも言わないと、彼女は泣きやんでくれない気がした
彼女は鼻を啜るばかりで黙ってしまい、俺も何も言えなくなってしまった
「……約束」
不意にそう呟いた彼女は、俺から手を離す
そして服の裾を引っ張り、顔をグシグシと拭った
「…約束、しようよ…」
彼女は依然俯いたまま、小指だけを伸ばした右手を俺に突きつける
「いつかまた、ここで会うって…。会いに来てくれるって…」
「…あぁ、約束する!」
『約束』の意味を理解した俺は、自分の小指を彼女の指に絡めた
『指きりげんまん♪』
二人で声を揃えて歌う
『嘘ついたらハリセンボンの~ます♪』
夕日はもう直ぐ、完全に沈む
「じゃぁ、さよなら…」
「『さよなら』じゃなくて『またね』だよ」
「あっ、そっか…、またな」
「うん、またね…」
『指きった』
夕日が完全に沈む直前、彼女は漸く顔をあげてくれた
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