『幽霊』

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『…物怪(もっけ)、物怪でございます。急行の通過待ちをいたしますので、暫くお待ちください』 もはや何度目かも解らない耳障りなアナウンスに、俺は夢の世界から現実に引き戻された。 変な体勢で寝ていた所為か、首を真っ直ぐに戻すと鈍痛が体に走る。 首筋をさすりながら何度か首を左右に振るとポキッと鈍い音が鳴った。 他人が聞いたら間違いなく引くような音だ。 幸い、ここは一人用の座席なので、気兼ねなく音を立てられるし、座ったままでも思いっきり伸びをする事が出来る。 「ぅん…、はぁ~…」 外の景色が動いていない所を見ると、どうやらどこかの駅で停車しているらしい。 座席から通路側に少し身を乗り出すと、出口へ向かう学生やサラリーマン、主婦で構成された人の列が出来ていた。 列は、そのまま窓の外にある駅舎へと吸い込まれていく。 駅名は…、座っている座席の都合上見えない。 もう何時間電車に揺られていただろうか? 最後に乗り換えを行った駅から、目的地までは二〇もの駅を通過しなければならない。 顔に当たる日差しが、綺麗なみかんの色に変わるのも当然と言える。 (綺麗な夕日だなぁ…。写真撮ったら綺麗に写るかな) 俺は趣味で、夕焼け空を撮り、コレクションしている。 いや『コレクション』と言うには大袈裟か。 道を歩いていて、良いなと思った空を携帯電話の写真機能で撮る程度なのだから。 ポケットに手を入れ、指紋と傷がちょっと気になるスマホを引っ張り出した。 数年前に『旧世代機』 いわゆる二つ折り携帯電話から乗り換えて以来使い続けている。 尤もスマホも、毎年新作が出て来るので、これも世代的には『旧世代』扱いではあるが。 上部に付いている電源スイッチを押して、液晶が立ち上がるのを待つ。 ところが、待てども画面は明るくなる気配がない。 スイッチをもう一度、今度は長めに押してみた。 …やはり変化は無い。 そこで漸く、俺は何故自分が眠ってしまったか思い出した。 携帯の電源は、一〇箇所目の駅を通過したあたりで切れていたのだ。 いくらバッテリー消費量が旧世代並みに改善されたとはいえ、丸一日使い続けていれば切れるのも当たり前だ。 残念だが、今日はコレクションを増やせそうに無い。
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