0人が本棚に入れています
本棚に追加
「正直、スマンかったッ!」
シート席にもたれて天井を見上げる俺に、電車の床で正座をした青年は、両手を付いて頭を下げた。
見事なまでの土下座だ。
「いやだから、もう良いって…」
この青年こそ、俺に激突し、壁に叩き付けられた人影その人である。
最初こそ下車を阻止された挙句怪我を負わされたことにムカッ腹が立ち、彼の謝罪を無視していた。
しかし、もとはと言えば出口付近でボーッとしていた自分に非がある。
「そっちこそ大丈夫か? 俺よりも派手な転び方してたけど」
「あ~、それはダイジョーブ。慣れてる。それにオレ、普段から鍛えてっから。こんなん、怪我のうちにも入らん」
やたらと言葉を区切る少年は行き成り立ち上がり、その場で元気良くスクワットをして見せる。
どんな生活をすれば壁に激しく激突する事に慣れるのか、はなはだ疑問ではあるが、なるほど。
俺と大して身長が変わらないのに、身に纏っているブルーのジャージが似合うがたいの良さをしている。
「しかし、大荷物だな。旅行、か?」
スクワットを続けながら、青年が話しかけてきた。
「いや、こっちの高校に合格して引っ越してきたんだよ。小さい頃に物怪に住んでいて、ずっと戻って来たいって思ってたから」
「つーことは、今年、『モッコウ生』か? なんだ、タメじゃん」
「そうなのか? あ、俺は『宇治(うじ) 森(しん)護(ご)』」
「『富士野(ふじの) みぞれ 』だ、宜しく、頼む」
「ねぇ、何あれ? 新手のシゴキ?」
「体育会系ってコレだから嫌よね…」
上下する富士野の後ろ。
即ち反対側のシート席に座るJC(ネットスラングで女子中学生のこと)二人がコチラを見てクスクスと笑っている。
電車の中、いやどこだったとしても、人前で行き成り土下座した挙句スクワットなど始めれば、好奇の目で見られるにきまっている。
何もしてない俺まで恥ずかしくなってきた。
最初のコメントを投稿しよう!