第四章

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 両者とも、一歩も引かない攻防が続いた。ただ乾いた板の踏み込まれる音、いつ終わるともわからない戦い、塀の上から見守る猫の瞳がその時を物語っていた。  「清照、そんなものか?やはりわしの下で稽古をしたほうがよかろう。」  「け、け、剣道を続けたいです……。」  体力があるのかお互いに口を挟む。鍔迫り合いの度に師範が言うと、同じように清照も言う。戦いは一層、熾烈を極めた。猫の目が瓜になろうかという頃合、やがて変化は訪れた。  「ァエエェェェェン!!」  叫んだのは清照、篭手を打ち込み横を抜けていくと師範が「コテ!」と言った。師範が中央まで行くと慌てて清照も中央に行く。しゃがみ納刀、立ち上がって歩み足で5歩下がり礼をする。  「清照、面を取りなさい。」  師範が紐を解きながら言ったので、同じくする清照。おどおどとした様子であったが、見つめていた。  「自分を超える……か。清照、お前さんの気持ちが伝わったよ。わしの負けだ。お前はわしさえも超えたのだな……。」  師範が悲哀を帯びた声色で語り始めた。清照の視線が徐々に落ちていく。しかし話は続く。  「どうせやるのならしっかりと上を目指しなさい。そして今いる友と切磋琢磨しながら……な?道場へはいつでもきなさい。わしは拒むことはないじゃろう……。」  清照は涙を浮かべながらただ「ありがとうございます。」と呟いていた。時々袖で拭っていたためか、びっしょりと濡れている。防具を全て外し、バッグにしまった。そして竹刀を袋に戻すと、  「い、今までありがとう……ございました……。これからもまた……稽古……お願いします……。」  と涙混じりの声で言いながら、道場を出て行った。
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