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ミシッ、乾いた音がするがよく手入れされている音である。清照の通う道場の古びた木材なんかの比じゃないぐらい、おそらくで良質なものなのだろう。
思わず裸足になってその感触を確かめると、それは確信へと変わった。足にくっつくようでそうでない、しかし裸足で何かをする――それも剣道や剣術といった裸足でやること――には最も良いものなのだと、そう感じていると先輩が話しかけてきた。
「剣道部にようこそ、よく来たね。早速だけど今日は防具を試しに着けてみようって体験内容を決めているんだけど、やってみるかい?それとも見ているだけ?」
眼鏡をかけた切れ者そうな人が口火を切った。すると江崎が「俺たち二人共やります。」と元気よく答えてしまい、何かを言う間もなく防具が用意されてしまった。言おうか言わまいか、迷っていると先輩の手によってあっという間に防具が付けられてしまった。
摺り足と振り方を教えてもらい、一回振る。そこでようやく決心したのか、言い出せなかったことを清照は言い出し始めた。
「あ……あの……先輩たちは出て行ってくださいっ……。剣を振るのは暴力ですし……誰かに見せる暴力なんて僕は……で……できません……。」
何かを言おうとした訝しげな表情を浮かべる男を抑え、眼鏡をかけた男が「なら俺達は出ていこうか。みんな、中庭で今日は素振りをしようか。」と言い、防具入れのロッカーから何かを取り出して、剣道場から全員が退出した。
閑散とした剣道場、乾いた木の板が擦れる音だけが静かに響き渡る。静寂を破るように清照が踏み込むと、二人は構えて向かい合った。
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