沈まぬ月の眼

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2人はキツネの死骸を道の端へ押しやって手を合わせ、足早に車へ入り再度走り出す。 「必ず亜美と遥ちゃんは、この先にいる」 「ああ、絶対にいる筈だ」 道を見る限り、どんどんと荒くなる凸凹の一本道、この先が何も無い行き止まりなら必ず深夜徘徊の車に出会える。 助手席にいる直人の貧乏揺すりは間に合えと願うほどに早くなり、外気を浴びて乗車したばかりの筈だが、ハンドルを握る遼の手は既に汗ばんでいた。 この時、もうすぐだと信じていた直人と遼は、言葉にして言い合わなくても、互いが何を考えているのか分かる。 無事でいてくれ… その想いの固まりが、ただただ2人を落ち着かせようとはしなかった。 闇夜、黒いワゴンと2人を乗せた車が徐々に近づきつつある情景を、まだ沈まぬ月だけが静かに見つめていた。
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