Epilogue

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 “彼女が死んだ”ということを聞いたのは、入院の手続きをしていた時。  使う予定の病室が、彼女が使っている部屋だったから。ゆーちゃんがこの部屋だけ桜が見えるんだよっていって笑っていた部屋だったから。 「ゆーちゃんは今どこの病室にいますか?」  今考えると、それは聞かないほうが良かった。聞かないほうが良かった。聞くべきではなかったのに。答えなんて分かりきっていて。それでも僕はどこかで期待していて。期待なんてしたから。 「亡くなりましたよ。去年の、六月に」    ____後悔した。 「ほんとに、何も聞いてなかったの?ゆーちゃんね、この間貴方に会った時にはもう……」  手遅れだった、と。余命宣告を受けていたと。  …………そう、か。  その病気は治らなくて、原因がはっきりしていなくて、治療法がわからなくて。      彼女が死んだ。  知っていた。彼女が死ぬ____そんなことは分かっていた。そんなことは当たり前で必然で必ず訪れるものだということを  僕は知っていた。  だから、泣けなかった。  病院は人が死ぬところだと、少なくとも自分はそう思っていて。  だから、誰が死んでも、突然目の前から消えても。それを受け入れなくちゃいけないのは分かっていたし、なるようになると思っていた。  ただ、僕にはそれができなかったみたいだ。 「あのねー、私、あと2年くらいで死んじゃうかなー」    嘘、つくなよ……。  2ヶ月の間違えじゃねえか。  僕、ゆーちゃんが嘘をついてたの、知ってたよ?眼が__瞳の奥が暗くなるから。どこまでも深く沈んで、その瞳で笑うから。悲しそうに笑うから。  嘘つき。  何で  なんで  ナンデ  ______そんなに悲しそうに笑って、嘘を吐く?  目を瞑ると思い出すのは彼女の笑顔。結局、最期まで心から笑ってくれることはなかったけれど、これで良かったのかなーって。    泣いてるじゃん、僕。 『死んじゃった、ごめんね』  彼女の、僕に宛てた最期の言葉。     ……ほんと、だよ。  結局僕も彼女に笑ってあげることはできなかったけれど、今なら笑うことができる気がする。  ありがとうございました  お疲れ様。    ____おやすみなさい。
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