11人が本棚に入れています
本棚に追加
天野はうつむくばかりで、言葉を発しなかった。
だが、少しすると、
「理由を教えて」
と聞いてきた。
いつもの僕なら、ここで適当な嘘をつくだろう。
相手が僕にこれ以上興味を持たないように、軽く受け流すはずだ。
それなのにこの時の僕は、嘘をつくことが出来なかった。
彼女の瞳が真実しか受け付けていないように、目を光らせていたから。
僕はやれやれと思い、頭をかいた。
「この手袋、何でしてるか知ってる?」
彼女は首を左右に振った。
「だよね。まあ、このクラスの誰にも言ってないから、当然か。実はね、僕の手は他人に触れると相手の記憶を消しちゃうみたいなんだ」
「…………は?」
口をあんぐりと開けて、意味がわからないという顔をする天野。
僕は構わず話し続けた。
「手が触れないようにこれを着けてるんだけど、正直これが意味あるのかもわからない。だから出来るだけ他人との接触を絶ってるんだよね。だから君とは握手も出来ないし、ましてや友達になることなんて…………」
と、ここで天野が急に机から立ち上がり──僕の右手を掴んだ。
天野の行動があまりに突拍子もないことだった為思考が追い付かなかったが、すぐにとんでもないことが起こったことが分かり、手を振り払う。
「お、おまっ! 何してんだよ!? 」
天野は自分の手をじっと見つめ、少しして柔らかな笑みを浮かべた。
「記憶……無くなってないよ!」
最初のコメントを投稿しよう!