「転校生」

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すると、タイミングを見計らったかのように着席のチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。 僕と天野は顔を反らし、黒板へ向かった。 先生は挨拶を軽く済ませ、黒板に今日やる古文の長文を書き込んでいく。 さっきまで転校生が来た、と騒いでいた連中も、人が変わったように真剣な面持ちで黒板を睨んでいる。 僕はというと、さっきまでの天野との会話が頭のなかで反芻していた。 『じゃあ、一回記憶、消しちゃおう』 『リセットした方がいいじゃない』 確かに天野の言う通りにすれば、この先楽になるのだろう。 けれど、それはしてはいけない。 それは僕の──わがままだ。 僕の都合で嫌われて。僕の都合で記憶を消して。僕の都合で友達になって。 それでは駄々をこねるガキじゃないか。 これが僕の微かなプライドだということはわかっている。そして、それが見る人によっては馬鹿馬鹿しく思えるようなことだということも。 それでも僕は一度決めた。 その決心をしたときの僕は、もう同じ目には合いたくないと思っていたはずだ。 その決心に背いて今の僕が同じ過ちを繰り返す訳にはいかない。 絶対に。
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