「転校生」

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不意に肩を叩かれる。 僕は窓際の一番後ろの席。つまり、叩いたのは天野だ。 天野は無言で机に1枚の紙を乗せると、すぐに正面を向き直した。 その紙には一言、 『ごめんなさい』 とだけ書かれていた。 「…………」 お前が謝る必要なんてないんだよ、天野。 悪いのは全部僕だ。 その言葉は、僕が言うべき言葉なんだよ。 「ふう、今日は暑いな」 大きな体格をした国語の男性教師は、額から汗を流しながらそう言い、窓を開けた。 ふっと篭った教室の空気が爽やかなものへと変わるのを感じ、僕は窓の外を見やった。 もう、春は終わった。 これから夏が始まる。 こんな灰色の青春に夏なんて関係ないかも知れないけれど、僕の胸はその思いとは裏腹に自然と弾んでいた。
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