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コンロに炭を敷き詰め火を着けようとするが、毎度のことながら上手くいかない。
中心をくりぬいた円柱状の炭が安いのでいつも使っているのだが、毎回手間取る。
次第に着火マンを押す指先が痛くなる。
七海さんと咲音さんがしゃがんで座り、揺らぐ炎の先をじっと見ている。
そんなに熱視線を送られても着かないものは着かない。催促されているような、また、期待になかなか応えられない状況にもやもや感が募る。
ね「……何?(笑)」
七「着いた?」
咲「着いた?(笑)」
七「着火剤、必要だった?」
咲「必要だった?(笑)」
そんなサツキとメイに苦笑いを浮かべるしかない。
5つの手のひらでぼんくら炭太郎を囲みようやく炭の縁が白くなる。
ふう……
七「代わろうか?」
咲「代わろうか?(笑)」
ね「…………うん、そうだね」
立ち上がり腰に手をやる。
簡易幼児プールでは、たっくんが寝そべりばた足を繰り返していた。戦隊物がプリントされた白いブリーフが泥を吸って薄茶色に変色している。
いくもさんはワンピースの裾を少し持ち上げ、積んだ石の上にしゃがみ、時折ぱしゃぱしゃとたっくんに水をかけていた。
背後でこそこそ話す声がする。
七 (あいつさ、いっつもそうだけどさ、説明書通りにこの赤い着火点に火を着けようとするじゃん?)
咲 (そうそう、縁の方が着きやすいっていつも言うのにね(笑))
七 (忘れちゃうのかね(笑))
咲 (たぶん、きっちり説明書通りにやりたいんだよ(笑))
七(几帳面ジャーやね(笑))
咲 (案外そうだよね(笑))
ふん、誰がやっても着きにくいんじゃ、ボケ。
振り返りコンロを覗くと20個余りの炭にもう火を着け終わっている。
…………
拗ねた俺は、姉たちに背を向け体育座りで座り川面に小石を投げる。
本気で拗ねているわけではもちろんない。
けれど、そんなふりでも続けていると、どうちた、僕?的な弄りが始まるので気を取り直し立ち上がる。
笑顔の中に爽やかの4文字を目一杯詰めて二人に言う。
ね「よし、後は俺に任せとけ!」
七「別にいい(笑)」
ね「……」
本格的に拗ねた俺は、慰めを乞い、いくもの元へと歩く。
ね「ねー、いくちゃん、遊ぼ(笑)」
無言でいくもが立ち上がる。
そしてゆっくりと振り向き情けない表情を浮かべた。
ね「どうした?」
いくもの下くちびるがにゅ~っと突き出る。
ね「ん?(笑)」
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