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岩田さんは備え付けのコーヒーカップに使い捨てのペーパードリップをセットした。そして電気ポットの湯を注ぐ。コーヒーの香ばしい匂いが鼻を突くけれど、少し違和感を覚えた。インスタントコーヒーじゃない、岩田さん。
「あの頃は本当に岩田さんを好きでした。でも美穂も失いたくなかった。結局は岩田さんも美穂も失いましたけど。もしあの時、私が美穂を振り切って岩田さんと付き合ったとしても上手く行かなかった気がするんです」
「千鶴ちゃん……」
「岩田さんだって、美穂が好きだから結婚を決めたんですよね?」
「ああ」
ドリップし終えて、岩田さんはベッドにいた私のところへコーヒーを運んで来てくれた。クリープのたっぷり入ったコーヒーじゃなく、レギュラーをブラックで飲むようになった。
「美穂も知ってたんだと思う。俺が千鶴ちゃんを好きで千鶴ちゃんも俺を好きなこと。一番の親友から大切なものを奪って苦しんでる美穂を見てるうちにね、この子は俺が守りたいって思うようになって。いじらしくて控え目で欲しいものを欲しいと言えずに来た美穂が、親友から奪ってでも俺を欲しいと思ってくれたこともね」
「はい」
「美穂から親友を奪ったのは俺も加担してるんだし」
責任を取るとめに結婚したと言いつつも、どことなく美穂への愛情を感じる台詞。
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