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暖房と冬独特の低い太陽のせいで車内の空気はモンヤリとしている。高校時代以来の地元の乗合バス、乗客は私と数人の年配者。ガタガタという振動音が余計に気分を朦朧とさせた。初恋どころか4度目の恋も実らなかった私は那須街道をバスで北上していた。
平日のガラガラなインターチェンジの前を通り過ぎ、バスは茶臼岳を目指して県道を登る。夏の強い日差しすらも遮る雄大だった赤松林、今はマツクイムシという害虫に食い荒らされて天井を隙間無く覆っていた枝葉が無い。ただの雑木林だった広谷地から一軒茶屋の道沿いには新しい土産物屋やカフェが幾つも建てられていて、逆に前回帰省した時に開店したレストランの駐車場には道路との境にロープが張られ、そこには「売り物件」という看板がぶら下がり揺れている。10年ひと昔とは良く言ったものだ。
仲町というアナウンスが聞こえて降車ボタンを押すと、バスはゆるゆると路肩に停まった。料金770円とは値上がりした、私が高校時代にバス通学していたときは580円だった。料金箱に小銭を落としてバスを降りると冷たい空気が頬を刺した。
再び那須街道を登りゆくバスを見送る。白線の外側はなけなしの幅、はみ出さないように歩く。背後からの車の音にびくびくした。狭い歩道で雨の日にはよく水を掛けられたものだった。変わったようで変わらない、変わってないようで変わった故郷の景色に懐かしくもあるし、どこかよそよそしい違和感も覚える。10年……いや15年ぶりの帰郷などそんなものかもしれない。
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