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私は少しばかり、気が焦った。年賀状を受け取ったら返すのを礼儀だと思っていた。しかし、この年賀状には送り主である葉子の住所が書かれていない。これでは、返しようがないではないか。名ばかり書いたところで、どこかの演歌歌手ではあるまいし届きようがない。送り返されてくるのが関の山だ。
「あなた、どうかしたの?」
住所不明の葉子なる人物からの年賀状を目の前に、顔面蒼白している私を心配して妻が聞いてきた。
「困ったことが起きた。葉子という人から、年賀状が届いたのだが、肝心の住所が書かれていないんだ。おそらく、去年どこかで会ったことがある人だと思うのだが。お前は知らないか」
「知らないわよ。あなたの知り合いなのでしょう。調べれば住所ぐらい、すぐに分かるでしょう」
「そうか」
仕事の関係で知り合ったのならば、どこかに名刺があるはずだ。それを頼りに調べれば、すぐに葉子の住所は分かるはずだ。
私は年賀状の仕分けも程々にして、立ち上がると、自室へ向かい、去年一年間に遣り取りした名刺を調べた。紙のままの名刺では覚えていられないので、コンピューターに読み込ませてある。そこで、葉子という名前を入力すれば。
そんな私の淡い期待はすぐに裏切られる結果となった。
「どういうことだ?」
去年の分だけでなく、これまで貰った名刺の情報は全てコンピューターに入力しておいた。だが、検索結果は一件も『葉子』という名前を見つけ出せないものだった。読み方が違うのかと思い色々な方法で検索してみたが、どれも同じ。検索されたかと思えば、それは会社名であったりと全く違っていた。
探しても見つからないとなると、私は落ち着かない。せっかく、元旦だというのに、この葉子なる人物からの年賀状に振り回されるのも、癪であるが、どこの誰なのか。気になりだすと、落ち着かないのが人の性分だ。
名刺検索で見つけ出せないとなると、残る可能性は、出版社に持ち込みなどとした新人の作家なのだろう。彼らなら、新人故に名刺の類を持っていなくても不思議ではない。
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