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1.それぞれの決意と旅立ちなんてロクな事がない
◆
この数年ぶりの再会は、偶然だった。
「何故…何故、君が魔王と共に……これは夢だと……嘘だと言ってくれ!」
アレキスの強い動揺が、真眼を通して私の中に流れ込んで来た。
そして、全てが壊れてゆく。
何度も私を説得しようと訪れるアレキスから伝わるのは、互いに家庭を持った今でも変わらない私に対する強い愛情…それと共に、日に日に高まる怒りと憎しみ。
「また魔王となる精霊が現れたのならば、全て私が滅ぼしてみせる!! 今なら…今なら完全に精霊核を破壊する術式も完成しているのだ! だから、魔王を改心させる必要なんて無い!!」
「ッそんな───違う。 私はそんなつもりじゃないの…何度も説明したはずよ、アレキス。」
そう、私が魔王…闇の精霊モルカと共に歩むのを誓ったのは、モルカの魔王となったキッカケを知ったから。
モルカは、とある魔族のヒトに対する憎悪…世界に対する破壊欲求…その強い感情に、魔術を通して影響された…精霊とは、皆そういった存在なのだ。
魔術の使い手の心によって、善にも悪にも…どの様な存在にもなり得る。
私は、そんなモルカを救いたかった。
だから私はヒトの素晴らしさをモルカに見せて、世界の素晴らしさを見せていったのだ。
そしてその旅の中で、その暮らしの中で、私は魔人や亜人のような他種族…今では総称として魔族と呼ばれる彼らの歴史を知った。
だから、これから私は共存という、争いの無い未来を目指すべきだと…それだけだった。
ただ、ただそれだけなのに…どうしてこんなに───
「…争いならば、絶対的支配者が居れば問題は無い……私が、私が全てを支配してみせる…!」
悲しい事になってしまったのだろう。
どうして、アレキスは狂ってしまったのだろう…私には分からない。
ヒトの気持ちを知る事ができる筈なのに、何にも分からない。
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